ビタミンは不思議な成分で、人の体に多くは要らないもの微量は必ず必要で、これが欠けると健康を著しく害します。しかもそれほど重要なのにほとんどのビタミンは人の体内でつくることはできません。したがってビタミンを含む食べ物を食べて体内に入れなければなりません(*1)。
ビタミンは年齢、性別などを問わず全人類に必要なものですが、高齢者は特に注意して摂取する必要があります。
それは加齢とともに健康を損ないやすくなり、食が細るからです。
この記事では、高齢者が注意したいビタミン不足と、代表的なビタミンであるA、B、C、D、E、Kの働きについて解説します。
そもそもビタミンとは
ビタミン不足は健康を害するので、ビタミンは体に必要なものと理解できますが、しかし実際は体に必要なものをビタミンと呼んでいます。
ビタミンは次のように定義されます(*2)。
- ビタミンとは、人が必要とする栄養素のうち、糖質(炭水化物)、タンパク質、脂質、無機質、水以外の有機物の総称、あるいは生体の代謝に必須の微量栄養素
ビタミンと認定されている物質は次の13種類です。
■13種類のビタミン
ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、ビオチン、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK
ビタミンのなかにも「ビタミン」とつかないものもあります。
そしてビタミンには別の名前があります。例えばビタミンAはレチノール、ビタミンCはアスコルビン酸などとなっています。
ビタミンBは複数あるので、まとめてビタミンB群と呼ばれます。
骨を強くするビタミンD
それでは高齢者の方に意識的に摂ってほしいビタミンについて解説します。
最初に紹介するのはビタミンDで、これは特に高齢女性に多い骨粗鬆症に関係します。
ビタミンD濃度が高い人ほど骨折リスクが低下した
骨粗鬆症とは骨量の低下や骨の構造が劣化する症状で、骨折のリスクが高まります。
大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症が原因になることが多いのですが、日本ではこの骨折が年175,700件発生していると推計され、その内訳は女性138,100人(79%)、男性37,600人(21%)となっています(*3)。
長野県で60代前後の女性1,470人を約7年調査したところ、血液中のビタミンDの濃度が高い人ほど骨折リスクが低下することが確認できました(*3)。
骨折を回避するためにビタミンDを摂りましょう。
体がカルシウムを吸収するのを助ける
ビタミンD不足が骨折のリスク要因になるのは、ビタミンDが、体がカルシウムを吸収するのを助けるからです。
カルシウムは骨の主要成分の1つですが、食べ物でカルシウムを摂ってもそれだけでは体はカルシウムを使うことができません。ビタミンDがカルシウムの吸収を助けることで、それを骨の材料にすることができるのです(*1)。
形性関節症のリスクを低下させるビタミンK
高齢者が「関節が痛い」と訴える原因の1つに、変形性関節症があります。関節は骨と骨の接合部のことで、その間にクッションの役割を担う関節軟骨が挟まっています。変形性関節症は関節軟骨がすり減るなどして発症します。
変形性関節症のリスク要因になるのは、加齢、女性(男性より患者さん数が多い)、体重増加、そしてビタミンK不足です(*3)。
血液が固まるのを促す
ビタミンKの主な働きは血液を固まらせることです。また、骨の形成にもビタミンKが必要とされ、骨粗鬆症の薬にもビタミンKが含まれることがあります(*5)。
血管が詰まるリスクを減らすビタミンB群
血管を詰まらせるものを血栓(けっせん)といい、血のかたまりのことです。
そして血栓をつくる病気の1つに高ホモシステイン血症があり、これにビタミンB群が関係しています(*6)。
高ホモシステイン血症のリスクを下げよう
ホモシステインはアミノ酸の一種で、必須アミノ酸であるメチオニンの副産物です。
メチオニンは肝臓の機能に欠かせない物質ですが、ホモシステインは血栓の原因となる厄介者です。
ホモシステインがメチオニンに変換するときに必要なのがビタミンB6、ビタミンB12、葉酸です。そのためこの3つのビタミンが不足するとホモシステインがメチオニンに変換されず、血液中に流れ出てしまい高ホモシステイン血症を引き起こし、血管を詰まらせてしまいます。
ビタミンB群は高ホモシステイン血症のリスクを低下させます。
ビタミンCが認知症のリスクを下げる?
金沢大学の研究チームが2018年に、ビタミンCが認知症リスクを下げる可能性があることを確認しました(*7)。
ただ、ビタミンCがたっぷり含まれる果物を食べたり、ビタミンCのサプリメントをたっぷり飲んだりすれば認知症リスクが下がる、といったことを証明したわけではありません。
アルツハイマー病因子を持っていてもビタミンC濃度が高いと発症リスクが低下
同研究チームが対象にしたのは、アルツハイマー病の危険因子とされるタンパク質「アポリポタンパクE」を有する高齢女性です。
同研究チームはアポリポタンパクEを保有しながら認知機能の低下がみられなかった高齢女性を調べました。その結果、血中のビタミンC濃度が最も高いグループは、最も低いグループより認知機能の低下リスクが顕著に低いことが確認できました。
この研究結果は、誰でもビタミンCをたっぷり摂れば認知症リスクが低下する、といったことまでは示していませんが、ビタミンCは体によい成分なので注目してよいと思います。
目によいビタミンA
ビタミンAは目によい働きをする成分です。
網膜細胞を保護したり、視細胞が光に反応したりするのにビタミンAが必要になります。
ビタミンAが不足すると「見えること」に支障が生じます(*8)。
がんとの関係はまだ解明されていない
ビタミンAは細胞の増殖に関与しているので、無制限に増殖するがんとの関係が研究されていますが、現在のところはまだ、ビタミンAを多く摂るとがんリスクが減るという研究結果は出ていないようです(*9)。
体を錆びさせないビタミンEとビタミンC
ビタミンEには酸化防止作用があり、細胞の劣化を防ぐ効果が期待できます。酸化とは錆びのことなので、ビタミンEを多く摂ると体の錆びが抑制されます。
ビタミンCも酸化防止作用があるので、ビタミンEと同じ効果を期待できます。
ビタミンEはさらに免疫機能を高めたり、血管を拡張させて血圧を下げたり、悪玉コレステロールを減らしたりする作用も期待できるので、高齢者に積極的に摂ってもらいたいビタミンといえます(*10)。
まとめ~ビタミンを多く含む食材一覧~
ビタミンは全人類が必要とする栄養素ですので、食が細りがちで、食欲が落ちがちな高齢者はより強く意識して摂るようにしてください。
最後にビタミンを多く含む代表的な食べ物を紹介します(*11~20)。
■ビタミンを多く含む食材
ビタミンA | しそ、モロヘイヤ、ニンジン |
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ビタミンB1 | グリーンピース、枝豆、ソラマメ、ニンニク |
ビタミンB2 | わらび、モロヘイヤ、トウガラシ、シソ |
ナイアシン | 玄米、落花生、スイートコーン、エリンギ |
葉酸 | イチゴ、パパイヤ、ホウレンソウ、夏みかん |
パントテン酸 | 納豆、玄米、アボカド、そば |
ビタミンB6 | バナナ、玄米、サツマイモ、トマト |
ビタミンB12 | 焼きのり、シジミ、ホッキガイ、牛レバー |
ビオチン | 落花生、アーモンド、ブロッコリー、納豆 |
ビタミンC | ピーマン、パプリカ、芽キャベツ、ブロッコリー |
ビタミンD | サケ、マグロ、サバ、キノコ |
ビタミンE | 卵、アーモンド、オリーブ油、アボカド、大豆 |
ビタミンK | ホウレンソウ、小松菜、納豆、春菊 |
このように、さまざまな食材にビタミンが含まれることがわかります。「今日はどれを食べようかな」と、楽しみながら健康づくりに取り組んでみてください。
参考