腎臓の働きが悪くなったり、機能しなくなったりする病気はいくつかありますが、それらを総称して腎臓病といいます(*1)。
腎臓病の治療では食事療法がとても重要になります。重度の腎臓病患者さんだと食事が命に関わることもあります(*2、3)。
さらに、腎臓病の進行度に応じて、食事療法の食事の内容を変えなければなりません。
とても重要なうえに、管理が難しい腎臓病の食事療法について解説します。
腎臓病食事療法の難しさの代表例はカリウム
腎臓病の食事療法を難しくさせている要因の1つにカリウムがあります。
一般的に「健康になるには野菜や果物を多く摂りましょう」といわれます(*4)。それは野菜や果物にはカリウムが多く含まれているからです。カリウムには血圧を下げる効果があり、心臓の負担が減ります。
また体内のカリウムはナトリウムと相互に作用しながら細胞や水分の状態を正常に保っています(*5、6)。
カリウムは健康成分といってもよいでしょう。
健康な人にとってのカリウムは腎臓病を予防する成分
健康な人がカリウムを適量摂取すると、高血圧、脳血管の病気、そして腎臓病の予防になります(*7)。カリウムの適量は、男性は1日3g、女性は1日2gとされています。
そして腎臓が悪化したとしても、それがまだ軽症である場合は、健康な人と同量のカリウムを摂取したほうがよいとされています。医師は腎臓病が軽症の患者さんに積極的に野菜や果物を食べましょうと推奨するはずです。
カリウムは突如、牙をむく
腎臓病の症状が中等度以上に悪化すると、途端にカリウム制限が必要になります。
カリウムは、健康な人でも過剰に摂取すると健康を害します。その状態を高カリウム血症といいます。
ただ、健康な人がいわゆる普通の食生活を送っていて、カリウムのサプリメントを過剰に摂取しているといったことがなければ、高カリウム血症が問題になることはほとんどありません。
しかし腎臓病を発症すると腎臓で血中の余分なカリウムを排泄できなくなるので、体内にカリウムがどんどん蓄積され高カリウム血症を発症しやすくなります。
高カリウム血症の症状は次のとおりです(*2、6)。
■高カリウム血症の症状
- 筋肉の収縮がうまくいかない
- 手足がしびれる
- 悪心、嘔吐
- 不整脈
- 心停止
- 死亡
高カリウム血症は命に関わる病気です。
そのため中等度以上の腎臓病の患者さんには、食事療法のなかでカリウムがかなり厳しく制限されます。
人工透析を受けている腎不全の患者さんのなかには、医師から、カリウムを豊富に含む生の野菜や果物は食べていけないといわれることもあります(*8)。
タンパク質を制限しなければならない
病院で腎臓病の入院患者さんに出す食事のことを腎臓病食といいますが、これをタンパク質制限食と呼ぶこともあります(*9)。
つまりそれくらい、腎臓病の食事療法ではタンパク質の制限が重要になってきます。
3大栄養素の1つを制限しなければならない事態に
タンパク質は、糖質と脂質と並んで3大栄養素と呼ばれていて、健康と体にとってとても重要な物質です。タンパク質は魚や肉、大豆などに多く含まれています。
ところが腎臓病が重症化すると、タンパク質を制限しなければならなくなるのです。腎臓病がどれだけ深刻な病気であるかがわかるでしょう。そして食事療法がどれだけ重要であるかも理解できると思います。
なぜタンパク質が腎臓病を悪化させるのか
タンパク質は体内で代謝されると、窒素化合物という老廃物が発生します。腎臓が機能していれば老廃物は尿と一緒に体外に排出されますが、腎臓病を発症すると排出しにくくなったり排出できなくなったりします。
体にたまった老廃物は腎臓に負担をかけ、腎臓病がさらに悪化してしまいます(*10)。
制限は必要だがゼロにできない理由
タンパク質制限は腎臓病の食事療法の重要課題になりますが、食べる量をゼロにすることはできません。それはやはり、3大栄養素といわれるほど重要な成分だからです。
腎臓病の食事療法では、1日のタンパク質の摂取量を標準体重1kgあたり1.0g(=1.3g/kgBW)以下にすることが求められます(*7)。
ただ1日のタンパク質摂取量を0.6g/kgBW以下にする超低タンパク食については、効果があるとする研究結果と死亡率が増加するという研究結果があり、医療現場でも判断に迷うことがあります(*7)。
したがって医療機関の医師や管理栄養士などは、腎臓病の患者さんが摂ってよいタンパク質の量を、年齢や体格、腎臓の機能に応じて変えています。
しっかり食べてしっかりカロリーを摂る
腎不全と聞くと「食べすぎが原因で糖尿病になり、それが悪化して腎機能が低下して発症した」とイメージするかもしれません。
この理解は正しいので、食べすぎは腎臓病の食事療法では厳禁であるように感じるかもしれませんが、そうではないのです。
もちろん、無闇に食べ続けることは厳禁ですし、タンパク質の摂取も厳しく制限されますが、それでも腎臓病の患者さんには「しっかり食べてしっかりカロリーを摂ること」が推奨されます(*10)。どういうことでしょうか。
体内のタンパク質が消えないように糖質や脂質を摂る
体がエネルギーを必要とするとき、最初に使われるのは糖質や脂質です。それが足りなくなるとタンパク質を分解してエネルギーにします。
ところが腎臓病の患者さんはタンパク質の摂取が制限されます。そのため、もし体内のエネルギーが欠乏してしまうと、筋肉などのタンパク質が分解されてエネルギーに使われてしまいます。
筋肉量が減ると筋力が低下して体を支えられなくなります。
それで筋肉などの体内の貴重なタンパク質をなくさないように、腎臓病の患者さんは糖質や脂質でエネルギーを確保しなければなりません。
これが「腎臓病の患者さんにしっかり食べてしっかりカロリーを摂ることが推奨される」理由になります。
もちろん肥満はNG
腎臓病の患者さんはしっかりカロリーを摂らなければなりませんが、肥満になってはいけません。つまり腎臓病患者さんも当然にカロリーの摂りすぎ(食べすぎ)は禁物です。
またすでに肥満の方は標準体重に戻すことが求められますが、腎臓の機能や栄養の状態との兼ね合いがありますので、体重と食事量の管理は医師や管理栄養士たちと進めていくことになるでしょう。
塩分制限
腎臓病の食事療法では塩分制限も必要になります。
食塩の量は1日6g以下にすることが求められています。
そしてこの1日6g以下は、高血圧患者さんにも求められる量でもあります(*7、11)。
日本人の塩分摂取量の平均は男性10.7g、女性8.9gなので腎臓病の食事療法を始めた当初は「塩気が足りない」と感じる人が多いはずです。
ただ塩気の不足感は減塩食をしばらく続けていくと慣れていくので安心してください。
まとめ~命を守るための食事制限~
記事の内容を箇条書きでまとめます。
- 腎臓病の食事療法は命に関わるほど重要であり、なおかつ難しい
- カリウムを多く含む野菜・果物は、軽症の腎臓病患者さんには推奨されるが中等度以上に悪化すると制限が必要になる
- 重い腎臓病の人が高カリウム血症を発症すると死亡することも
- 腎臓病の食事療法で最重要課題になるのがタンパク質制限
- タンパク質の老廃物が腎臓に負担をかけて腎臓病が悪化する
- 筋肉のタンパク質を減らさないために、腎臓病患者さんはしっかりカロリーを摂る必要がある
- ただし肥満はNG
- 塩分制限は高血圧の人並みに必要
この記事も参考に医師の診断のもと、これらのことに注意しながら食事をしていきましょう。
参考
*2:栄養素から見た腎臓 〜腎由来のさまざまな血液中の成分の異常|ADPKD.JP
*3:リンを低く保つことが長生きの秘訣|m3.com学会研究会
*5:心臓病の治療について – 食事療法|日本心臓リハビリテーション学会