「年を取ると、いろいろなことが若いころと違ってくる」と感じるのは当然のことで、それは体がいろいろと変化するからです(*1)。そして体が変化してくると、必要な栄養素も変わってきます。つまり「高齢になったら、より積極的にこの栄養素を摂ったほうがよい」という栄養素が出てくるのです。
体に必要な栄養素は食事で摂ることが理想的です。そこでこの記事では、高齢者の方に摂っていただきたい栄養素と、食事の注意点について解説します。
高齢者も肥満に注意
高齢者と栄養の関係で重要になるのは低栄養ですが、その一方で肥満も健康に悪影響を及ぼします。まずはこちらからみていきます。
肥満が健康の敵であることはよく知られていますが、高齢者の場合、若い人とは異なる事情で懸念が生じます。
高齢者の場合、肥満が虚弱(フレイル)に関与することがあるのです(*2、3)。
ちなみに肥満とは、BMI(体格指数)が25以上の状態を指します(*4)。BMIの計算式は次のとおり。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
例えば、身長1.6m、体重64kgの人はBMIが25(=64÷1.6÷1.6)になるので肥満と認定されます。
虚弱(フレイル)は要介護状態に直結する
老年医学の領域においてフレイルという考え方が注目されています。フレイルの直訳は虚弱ですが、医療では高齢者に起きる疲れやすさや活動性の低下、筋力の低下、体重減少、歩行速度の低下などの現象のことを指します。
フレイル高齢者という言葉もあって、これは健康寿命を失いやすい高齢者という意味です(*5)。
高齢者の健康では体重減少も課題になりますが、その真逆である肥満もフレイルを引き起こす可能性があると指摘するのは、名古屋大学大学院医学系研究科・老年科学教室です。肥満がフレイルを引き起こし要介護状態に直結することがあると指摘しています(*2)。
同教室によると、BMIが18.5~25の人のフレイル・リスクは10程度ですが、30を超えると20程度に跳ね上がります。
また、肥満の高齢者は身体能力が低くなる傾向があり、これはフレイスの症状そのものです。
高齢者の健康では、低栄養にも注意しなければなりませんが、栄養過多による肥満にも十分警戒する必要があります。
低栄養にも警戒を
それでは高齢者の栄養問題のメインテーマである低栄養について解説します。
低栄養とは、食欲が低下したり、食事が不自由になったりしてあまりものを食べなくなり、体内の栄養素が減ってしまう状態のことです。
低栄養もまたフレイルの原因になりえる為、要介護状態につながってしまいます(*5)。
「低栄養→X→要介護」に注意を
低栄養が要介護状態になることはイメージしやすいと思います。
しかし低成長と要介護の間には、さまざまな要素があります。つまり「低栄養→X(さまざまな要素)→要介護」という段階を踏んで健康が悪化していくわけです。
その流れは以下のようになります。
■低栄養から要介護になる流れ
低栄養→体重減少→筋肉減少→疲労、筋力低下→移動困難、転倒→障害→要介護状態
高齢者の生活の質を低下させるあらゆる要素の起源が低栄養であることがわかります。そして到着したくないゴール地点である要介護状態のスタート地点も低栄養です。このことから、高齢者やその家族が栄養に配慮することは大切であるといえます。
栄養は「エネルギー」「体をつくるもの」「調子を整えるもの」の3つで考える
高齢者の栄養摂取は、肥満にも低栄養にもならないようにバランスを取っていかなければならず、それには栄養に関する基本的な知識が必要になるでしょう。
栄養の基本は次の3つの観点から成ります(*6)。
■高齢者の栄養を考えるときの3つの観点
- エネルギーになる栄養を摂る
- 体をつくるものになる栄養を摂る
- 体の調子を整える栄養を摂る
栄養がどれだけ重要であるかは、「この3つがなくなったら」と想像すると理解できると思います。エネルギーがなくなり、体をつくれなくなり、体の調子が整わない状態で健康を維持できるわけがありません。
つまり、病気を発症していなくても、栄養の基本がなっていないと健康を崩すことになります。
それでは上記の3項目を1つずつ解説します。
エネルギーになる栄養を摂る
人にとってのエネルギーは、自動車にとってのガソリンと同じで、ガソリンがなくなると自動車が動かなくなるように、エネルギーがなくなると人は動くことができません。
人のエネルギーになる栄養で最も重要なのは糖質、つまり炭水化物です。糖質は食べてすぐにエネルギーになるイメージです。
糖質の次にエネルギーになりやすいのは脂質です。
そしてタンパク質もエネルギーになりますが、この3つ(糖質、脂質、タンパク質)のなかでは最もエネルギーにしにくい栄養です。タンパク質は、糖質の摂取量が足りなくなったときにようやく分解されてエネルギーになります。
糖質、脂質、タンパク質は3大栄養素といわれるほど重要ですが、その理由の1つはエネルギーになるからです。
体をつくるものになる栄養を摂る
体は脂肪、筋肉、骨、髪、液体などでできています。自動車がフレームやボディ、エンジン、ブレーキなどの部品が合わさってできているように、人もそれら「体をつくるもの」が合わさってできています。
では「体をつくるもの」は何でできているのかというと、やはり栄養なのです。
筋肉や髪、爪などはタンパク質から、骨や歯などはミネラルから、脂肪や細胞膜などは脂質からできています。
体の調子を整える栄養を摂る
「体をつくるもの」だけが合わさって体ができるわけですが、合わさっただけではうまく機能しません。
体をうまく機能させて動かすには、ある「体をつくるもの」と別の「体をつくるもの」を連係させたり、調節したりしなければなりません。
「体をつくるもの」どうしの連係や調節を担う栄養はビタミンとミネラルです。
ビタミンとミネラルは、代謝、神経、血液、骨、血管、ホルモン、体温、体に必要な物質の生成、体の状態などに関わります(*7)。
つまり、せっかくエネルギーや体をつくるものを獲得しても、体の調子を整えるものが欠乏していてはやはり健康を維持できません。
したがってビタミンとミネラルは体の調子を整えるものといえます。
では高齢者は何をどのように食べたらよいのか?
栄養素を摂ることは、食べることと同義です。つまり栄養素は、食材や食事を口のなかに入れて、よく噛んで、胃でしっかり消化して、腸でしっかり吸収することで摂ることになります。
サプリメントや医学的な技術を使っても栄養素を摂ることはできますが、それは何かしらの理由で食べられなくなったときの策と考えてよいでしょう。基本はやはり食べることです。
では高齢者は、何をどのように食べたらよいのでしょうか。
結論を先に紹介すると、いろいろなものをまんべんなく、過度にならないように適量を食べるようにしましょう(*6)。
糖質(炭水化物)を過度に避けないで
世間では「糖質ゼロ」や「糖質抜きダイエット」などが流行っていますが、これは糖質を摂りすぎて肥満になっている人が気にすることであって、「糖質は悪ではない」ということはしっかり押さえておいてください。
糖質=炭水化物は効率よくエネルギーを獲得できるのでとてもよい栄養素です。
米、小麦、イモ、トウモロコシ、果物は、適量を摂る必要があります。
脂質は「飽和」と「不飽和」をバランスよく摂る
脂質にはさまざまな種類がありますが、ここでは飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2つを紹介します。この2つをバランスよく摂ることが大切です(*6、8)。
飽和脂肪酸はコレステロールを増やすので健康によくない、といわれることがありますが、この見解は半分正しく半分間違っています。
コレステロールが増えすぎると健康に悪影響を及ぼすので、例えば肥満の方は飽和脂肪酸を控えたほうがよいでしょう。
しかしコレステロールはホルモン、胆汁酸、脳や神経の細胞の材料になるので、少なすぎるのも体によくありません。
そして肥満の方は、不飽和脂肪酸を摂るようにしましょう。不飽和脂肪酸はコレステロールを低下させる効果や、動脈硬化の予防効果があるからです。
飽和脂肪酸は、バター、チーズ、牛脂、パーム油などに多く含まれています。
不飽和脂肪酸は、オリーブ油、大豆油、青魚などに多く含まれています。
いろいろな油を食べることで、飽和と不飽和のバランスを取っていってください。
「タンパク質が少ないかも」と思ったら意識して摂るようにしよう
もし高齢者の方が「自分はタンパク質の摂取が少ないかもしれない」と思ったら、本当に少ないのかもしれません。
国の調査では、年齢が高いほど、タンパク質のおかずの摂取量が少ないという結果が出ているからです(*9)。
肉、魚、大豆、貝類、卵はタンパク質が豊富な食材ですので意識して摂るようにしましょう。
まとめ~普段の食生活に無理なく取り入れてみよう~
この記事の内容を箇条書きでまとめます。
- 高齢者の栄養を考えるとき「肥満も駄目」「低栄養も駄目」が基本となる
- 栄養素は「エネルギー」「体をつくるもの」「調子を整えるもの」だからとても重要
- 高齢者は、糖質を過度に避けない
- 高齢者は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸をバランスよく摂る
- 「タンパク質をあまり食べていない」という高齢者は、意識して摂るようにする
これらのことを押さえておけば、栄養面はかなり改善されるはずです。
ルールは少し多いかもしれませんが、少し意識を変えるだけで普段の食生活に取り入れることはそう難しくないはずです。この記事も参考に、食事と栄養について考えてみてください。
参考
*2:高齢者と栄養~若年者との相違を中心に|名古屋大学、葛谷雅文
*3:名古屋大学大学院医学系研究科・地域在宅医療学・老年科学教室